日本医学物理学会における医学物理士への支援について

日本医学物理学会における医学物理士への支援について

令和4年3月26日
日本医学物理学会 医学物理士委員会

1 はじめに

医学物理学とは物理学、工学、技術学、保健学などの様々な知識・成果を医学に応用・活用する学術分野である。現在、我が国には医学物理学に関連した複数の団体が存在し、医学物理学及び医学物理士の発展に取り組んでいる。日本医学物理学会(以下、「本学会」という。)は医学物理学の研究開発及び研究教育者を育成する学術団体、日本医学物理士会は医療の質の向上に貢献する医学物理士を主に育成する職能団体、医学物理士認定機構は医学物理士の資格及び育成機関の審査・認定を行う外部機構である。
近年の発展が著しい放射線医療分野では、初期の段階から医学物理学が深く関わっている。また、その時代背景に応じた医学物理学の専門知識を有した人材が求められてきた。そのため、放射線医療分野で活躍する医学物理士の育成を支援するために、本学会としては医学物理学の専門知識を得るための機会の提供を支援することが重要である。そこで、本学会医学物理士委員会を中心に、本学会における医学物理士への支援について、示すこととなった。

2 医学物理士について

医学物理士とは、放射線を用いた医療が適切に実施されるよう、医学物理学の専門家としての観点から貢献する医療職である。放射線医学においては必須の職業として国際的に広く認められており、国際労働機関(ILO)の国際標準職業分類「ISCO-08」における「物理学に関連する科学的知識を医療の分野に応用する職業」Medical Physicistに相当する1)。
放射線医学は、「放射線診断」「放射線治療」「核医学」「放射線防護・安全管理」に大きく分けられ、それぞれにおいて臨床現場における医学物理士の役割も異なると考えられている2)。放射線治療分野においては、主に医師と連携を取りながら治療計画の立案・最適化を行い、主に診療放射線技師、放射線治療専門放射線技師及び放射線治療品質管理士と協力しながら治療装置の品質管理・保証・治療計画の検証等を行う。さらに、患者体内での吸収線量に関する位置的及び量的精度が、医師の要求する臨床的許容範囲内に収まっていることを担保する。放射線診断分野においては、医師と連携を取りながら診断的有用性と安全性のバランスを保ち、診療放射線技師と協力しながら診断装置及び診断画像の品質管理・保証及び被ばく線量管理を実施する。核医学分野においては、放射性同位元素を用いた診断や治療を実施するための核医学装置の品質管理・保証、核医学画像の品質管理・保証及び被ばく線量の管理を実施する。放射線防護・安全管理分野においては、放射線の害を最小限に抑えるよう安全管理業務を行う。
上記のいずれの分野においても、臨床業務に加えて医学物理学的観点から研究開発を行うことも期待されている2)。このことから、医学物理士は臨床業務を行うスキルだけでなく、研究開発を行うスキルも求められており、そのような多面的な能力を持つ医学物理士を育成できる教育が必要となる。

1) https://www.ilo.org/public/english/bureau/stat/isco/isco08/index.htm
2) https://www.jbmp.org/it/

3 医学物理士への支援

前述の通り、医学物理士の業務は多岐にわたることから、医学物理士には、医学物理学に基づくあらゆる臨床面及び研究面の双方に対する知識・経験が求められる。
臨床現場における医学物理士の役割は、医療の品質向上とその維持である。医学物理士は、医療機器の受入試験やコミッショニングを適切に実施し、機器の臨床稼働においては定期的な精度管理を通して、医療の品質と安全を維持するための中心的な役割を担うことが期待される。新たな治療法や撮影法等を臨床導入する際には、適切なコミッショニングを実施するだけでなく、その診療プロセスを適切に評価し、安全な医療を提供するためのプロトコルやガイドラインを開発する能力も不可欠である。また、安全な高品質な医療を患者へ提供するには、医療に係わる他職種との連携における協調性も重要なため、コミュニケーション能力も要求される。一方、研究面においては、従来の臨床及び研究において培われた知見を基に、新たな医療機器・技術を開発する能力が求められる。そのためには、過去の研究及び最新の情報を収集するための探索能力や論文読解能力、解決すべき課題を見い出すための洞察力、その課題解決のための本質を捉える考察力、具体的に課題を解決するための手段となる物理学・工学的な基礎学力、基礎研究を臨床へと結びつけるための実行力などが必要であると考えられる。
学術団体である本学会と職能団体である医学物理士会が協同しながら、医学物理士に必要とされる知識・経験及び培われる能力等を身に付けるための支援の場を提供する必要がある。臨床現場においては、研究開発を通して医療の発展に貢献したいと考える医学物理士の研究を支援したいと考えている。一方、教育現場においては、学生、研究者、そして医学物理士を目指す者や既に医学物理士である者に対して、これまでの研究開発等の経験を活かした教育を行う。本学会としては、それらの教育を通して、次代を担う若手研究者や臨床で働く医学物理士の育成と輩出により、多くの患者へ高品質の医療を届けることへ貢献したいと考えている。

4 本学会が実施する医学物理士への支援活動の例

以下において、「臨床」及び「研究開発」を行う医学物理士に対する支援の例をそれぞれ示す。

「臨床」を行う医学物理士への支援例
• 診断物理学、核医学物理学、治療物理学、放射線防護・安全管理学、基礎医学物理学等の医学物理学に関する知識を学ぶ場の提供
• 臨床現場に医学応用されている(今後応用されると思われる)機器等に関する知識・技術を習得する場の提供
• 臨床現場で生じる諸問題を解決するためのデータ解析、プログラミング等に関する知識・技術を学ぶ場の提供

「研究開発」を行う医学物理士への支援例
• 医学物理学及びこれに関係する研究、技術、知識についての意見・情報交換を行う場の提供
• 科研費獲得推進に関するシンポジウム等の開催による研究活動の支援
• 医学物理学に関する調査研究促進のための資金援助(研究課題援助)
• 国際会議における研究成果発表の奨励のための資金援助
• 人を対象とする医学研究に関する倫理の教育支援

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