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ICRP勧告

 
ICRPは、2018年10月までに139のPublicationを公表しています。その中で、Publication 1, 6, 9, 26, 60, 103は「Recommendations of the International Commission on Radiological Protection」として、放射線防護体系に関する勧告を与えています。
最も新しい勧告は2007年に公開されたICRP Publication 103 (以下、ICRP103)です。ICRP103では、「行為」と「介入」を用いた従来の放射線防護に対するアプローチから、「被ばく状況」に基づくアプローチへ移行しています。

以下では、ICRP103の重要な概念について説明します。

放射線防護の目的

  • 被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく、人と環境の安全を確保すること
  • 第一の目的は人の健康に関する防護:
    ・放射線被ばくを管理、制御することで、確定的影響(しきい線量あり)を防止し、確率的影響(しきい線量なしと仮定)を合理的に達成できる程度に減少させること。

被ばくの種類

ICRPは「職業被ばく」「医療被ばく」「公衆被ばく」の3つの被ばくカテゴリーを以下のように定義し、規制の目的のために、同一の個人に異なるカテゴリーからの被ばくを考慮する必要がないことを勧告しています。
例えば、放射線作業従事者として被ばくする可能性のある個人が、医療行為によって被ばくした線量を職業被ばくの規制に係る線量に加算する必要はありません。

  • 職業被ばく
    放射線作業従事者が自らの仕事の結果として被るすべての放射線被ばく。
    これは、仕事中に受けるすべての被ばくを含むことになりますが、実際、放射線はどこにでも存在するため、管理者の責任であると合理的にみなすことができるものに限定されます。(自然バックグラウンドによる被ばくは除かれます。)
  • 医療被ばく
    医療被ばくは、3つの異なるタイプがあります。
    1) 患者の医療被ばく
    2) 患者を介護、介助する個人の医療被ばく
    3) 生物医学研究の志願者(被験者)が受ける医療被ばく
  • 公衆被ばく
    職業被ばくと医療被ばく以外の公衆の受けるすべての被ばく。
    通常の局地的な自然バックグラウンド放射線による被ばくを除きます。また、妊娠している放射線作業従事者の胚や胎児の被ばくは公衆被ばくと考えます。

被ばくの状況

ICRP60では線量を加える「行為」と線量を減らす「介入」を区分することにより、放射線防護にアプローチしていました。一方、ICRP103では放射線被ばくの状況3つのタイプ:「計画被ばく状況」「緊急時被ばく状況」「現存被ばく状況」に区分し、状況に応じた放射線防護のアプローチを用いています。

  1. 計画被ばく状況
    線源を意図的に導入、運用する状況。
    発生が予想される被ばく(通常被ばく)と発生が予想されない被ばく(潜在被ばく)があります。潜在被ばくには、計画された手順からの逸脱、事故、悪意ある事象などによって生じる被ばくが含まれます。
  2. 緊急時被ばく状況
    予想せぬ状況から発生しうる好ましくない結果を避けたり減らしたりするために緊急の対策を必要とする状況。
  3. 現存被ばく状況
    管理の導入について検討が必要とされるような長期にわたる被ばくが存在する状況。
    例えば、高自然バックグラウンド地域における被ばく状況や緊急時被ばく状況後の被ばく状況です。

防護の基本原則

ICRP60において、「介入」「状況」とは別に行為に対する防護の原則が示されています。ICRP103でも、これらの原則を防護体系の基本と考え、各被ばく状況に適用する一連の原則を定めました。定められた原則は以下の3つです。

  • 正当化の原則:放射線被ばくの状況を変化させるいかなる決定も、外より便益を大きくするべきである。
    正当化の原則は、新しい線源の導入による損害を相殺するのに十分な個人的あるいは社会的便益を達成すべきであるということを意味します。ただし、正当化において、考慮すべき項目は放射線に関連するものに限定されず、放射線影響が全体のうちの小さな部分に過ぎないこともあります。よって、正当化は放射線防護の範囲を超えて検討するもので、利用できる代替案の中から最適なものを探すことは、放射線防護に関連する当局の責任を超えることもあります。 ICRPは、正当化されない被ばくの例として以下を挙げています。
    ・放射性物質の故意の添加、放射化により、飲食物、化粧品、玩具、個人の宝石や装飾品などの放射能を高めること。
    ・放射線診断によって、検査を受ける個人の健康または、重要な犯罪検査の支援に有用な情報されると期待される場合を除き、臨床とは無関係の放射線診断。
  • 防護の最適化の原則:被ばくする可能性、被ばくする人の数、及びその人たちの個人線量の大きさは、すべて、経済的及び社会的な要因を考慮して、合理的に達成できる限り低く保たれるべきである。(ALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則)
    防護の最適化は、将来の被ばくを防止、または低減することを目的とした前向きの(将来に対する)プロセスです。また、防護の最適化は線量を必ず最小にするということではなく、被ばくによる損害と個人の防護のために活用できるリソースを考慮することが必要です。このプロセスの中で、線量拘束値、参考レベル(下記補足参考)、診断参考レベル(医療被ばくにリンク)が利用されます。
  • 線量限度の適用の原則:患者の医療被ばくを除く計画被ばく状況では、規制された線源から受けるいかなる個人への総線量が、ICRPが勧告する線量限度を超えるべきではない。
    規制に用いられる線量限度は、ICRP勧告等を考慮し、各国の規制当局によって定められます。

3つの原則のうち、「正当化の原則」「防護の最適化の原則」は、ある線源からの被ばくを考慮した「線源関連」の線量評価によるものであり、すべての被ばく状況に適用されます。線量限度の適用の原則は、ある個人が受けるすべての規制された線源を考慮した「個人関連」の線量評価によるものであり、計画被ばく状況において適用されます。


補足:線量拘束値・参考レベル


線量拘束値と参考レベルは、防護の最適化に使用されます。

線量拘束値患者の医療被ばくを除く計画被ばく状況において、ある線源から予想される個人の線量に対する線源関連の制限値。
もし予想値が線量拘束値を超える場合には、その線源に対して防護の最適化を行う必要があります。また、ICRPは線量拘束値を規制上の限度として用いるべきではないことを強調しています。

参考レベル緊急時被ばく状況、現存被ばく状況において、防護対策の計画の中で防護の最適化のプロセスで用いる値
患者の医療被ばくにおいては、診断参考レベルを用います。このレベルを超えている場合には、防護が適切に最適化されているか、防護対策が必要かどうかを検討する必要があります。

ICRPの防護体系で用いられる線量拘束値と参考レベルを線量限度とともに下表にまとめます。
   被ばくの種類  
職業被ばく 公衆被ばく 医療被ばく
被ばくの状況   計画被ばく 線量限度 
線量拘束値
線量限度 
線量拘束値
診断参考レベルb)
線量拘束値c)
緊急時被ばく 参考レベルa) 参考レベル -
現存被ばく -a) 参考レベル -
a) 長期的な回復、改善作業は計画被ばく状況として扱うべきである。
b) 患者
c) 介助者、介護者及び研究における志願者のみ